■法定速度の理由
トラックドライバーが不足する「物流2024年問題」に対応するため、警察庁が高速道路を走る大型トラックの最高速度を現行の80km/hから引き上げる方向で検討に入った。引き上げが実現すれば、交通規制の大転換となりそうだ。高速道路(高速自動車国道)の法定速度は、
・普通車:100km/h
・大型トラックとダンプトラック:80km/h
これは道路交通法施行令第27条で定められている。簡単に整理すると、現在の区分は以下の通りだ。
・100km/hまで:大型自動車、中型自動車、準中型自動車、普通自動車、大型自動二輪車、普通自動二輪車
・80km/hまで:その他の自動車
高速道路の法定速度は、日本初の本格的な高速道路である名神高速道路が開通した1963(昭和38)年に制定されたものだ。この時に決まった事は分かっているのだが、「なぜ、車種によって100km/hまでと80km/hまでに分けたのか」「上限速度を100km/hと80km/hに設定した根拠は何だったのか」肝心のこの部分は警察庁にも資料がなく謎である。
ちなみに、首都高1号線の京橋~芝浦間の首都高速道路(自動車専用道路)が開通したのは1962年である。当時の制限速度は60km/hだったが、こちらもなぜ60km/hに設定されたのかは分からない😐
■最高速度引き上げの裏に欧米の「外圧」❓
それから約60年間の状況をまとめると、次のとおりとなる。
・普通車や大型トラックの最高速度を引き上げる動きは一度もなかった
・軽自動車とオートバイは、最高速度が80km/hから100km/hに引き上げられた(2000年10月の法改正)
後者の引き上げの理由は、「外圧」だった。
警察庁がオートバイの制限速度引き上げを検討し始めたのは、1997(平成9)年である。オートバイが大型トラックと同じ速度で車線の左側を走ると、オートバイ側の視界が悪くなり、他の車両から見えなくなって危険だという指摘があった。
しかし、警察庁がこの問題を検討し始めたのは、危険だからというより、欧米諸国から日本政府に対して「最高速度の引き上げ要請」があったからだ。諸外国が道路交通法に参入してきたのは、大型二輪車の市場開拓のためである事は当時盛んに報じられていた。
これを受けて政府は1999年、規制緩和推進3か年計画に最高速度引き上げの是非を調査・検討する事を盛り込んだ。その後、警察庁は次のような結論を示した。
・一般車と同じ速度にする事で、追い越しの危険性が減り車の流れがスムーズになる
・実験の結果、100km/hでもドライバーの疲労度や車両の安定性はほとんど変わらない
この結論に基づき、軽自動車と二輪車の最高速度は100km/hに引き上げられたのだ。
ちなみに、当時米国が求めていた高速道路での2人乗り解禁については、警察庁が難色を示したが、2005年に一定の条件付きで解禁された。一方、大型トラックは「外圧」もなく、何も無いままに60年が過ぎたのだ🤨
■大型トラックの制限速度引き上げ
1992(平成4)年6月、警察庁は道路交通法を改正し、大型トラックの一般道の法定速度を50km/hから60km/hに引き上げた。これは、地方自治体が独自の判断で実施していた制限速度の緩和を追認したものだった。一般道で初めて制限速度が引き上げられたのは1990年2月、栃木県が前年に4車線道路が完成した宇都宮市の国道4号で実施した。その理由は次のとおりである。
・道路の設計速度は80km/h
・深夜の交通量の半分は大型トラックである
・高速を走る一般車が大型トラックを無理に追い越そうとして事故が多発している
・法定速度が50km/hの道路でも、実際には85%の車両が60km/hで走行している
・実勢速度に合わせて法律を改正する事で、自動車の流れがスムーズになり都市機能が回復する
1990年代から2000年代前半にかけては、車種に関係なく制限速度を高い方に統一する、あるいは低い車種の制限速度を引き上げて速度差を小さくし、自動車の流れをスムーズにし、安全性を向上させる考え方が支持されていた事が分かる😕
■規制緩和と交通事故
大型トラックの制限速度の引き上げについては、次のふたつの意見が対立している。
・スピードを出すと危険だから、最高速度は80km/hにとどめるべき
・制限速度の違う車が同じ車線を走るのは危険だから、最高速度を上げるべき
このふたつの意見は相反するが、これまで前者がおおむね支持されてきた。前者が過去20年ほど支持されてきたのは、制限速度が80km/hであるにもかかわらず、実際には100km/hで走る大型トラックが多く、それが事故の原因と見られていたからだ。実際、2000年代前半には大型トラックの速度超過による事故が多発しており、規制緩和など様々な要因が重なっていると考えられる。
1990(平成2)年に貨物自動車運送事業法が施行され、規制緩和によってトラック運送事業への新規参入が急増した。加えて、2003年には事業区域規制や運賃・料金の事前届け出制が廃止され、事業者間の競争が激化した。競争の激化は値下げ競争につながる。収入の減少を補うためには、過大なスピードでもいいから貨物を速く運べばいいと考えられるようになった。また、この頃から荷主の要求は厳しくなった。鹿児島県のトラック業界団体幹部の次のようなコメントがあった。
「枕崎のカツオ、垂水のカンパチなど鮮魚は東京や大阪、名古屋にトラックで運ばれている。魚は2日目までに売るという原則がある。3日目では値段が10分の1に下がって商売にならない。だから100km/hを超える速度で走っている事もあるようだ」
「あるようだ」とのコメントは無知を装っているが、荷主の要求があるからスピード違反はやむを得ないという事を公然と認めているように受け取れる。
全日本運輸産業労働組合連合会が2002年に実施した調査によると、1万人のドライバーのうち「29.2%」が100km/hを超えて運転していると回答しており、常習的なスピード違反がまん延している事が伺える。ドライバーは低賃金で過重労働を強いられ、スピード違反をしてでも早く荷物を運ぶ事を求められていたのだから、事故が頻発するのも無理はない。ドライバーに同情する😟
■スピードリミッター義務化
その結果、速度制限の義務化が実施された。2003(平成15)年9月、政府は新車で販売される大型トラックすべてにスピードリミッター(90km/h以下に制限する装置)の装着を義務付けた。移行期間を経て、この規制は2005年に全ての車両に適用された。
安全性の観点からは当然の措置だが、トラック業界は一貫して制限速度の引き上げを求めてきた。全日本トラック協会は毎年、規制改革に関する要望書を政府に提出しており、そこでは一貫して引き上げを求めている。例えば、2001年度には以下のような要望が出されている。
「高速道路において、同一の走行車線に速度の異なる車両が混在して走行する事は、車両の安全走行を妨げるばかりか、事故を誘発する一因にもなりかねない。他の交通と合わせ、高速道路の円滑な走行を確保する観点から、高速道路における大型貨物自動車の最高速度規制を現行の80km/hからバスと同様100km/hに引き上げられたい」
事故多発を背景にスピードリミッターが義務化された後も、トラック業界は「速度引き上げによる平準化が先決」という意見を堅持し続けてきた。
これまで安全上の問題から採用される事のなかったこの主張が、2024年問題の解決策として突如として採用されたのである😥
■最高速度の引き上げを後押しするもの
安全上の理由から実施されてこなかった最高速度の引き上げを後押ししてきたのは、高速道路の一部区間で、一般車両の最高速度が120km/hに引き上げられた事である。警察庁は、この引き上げを次の基準に基づいて認可している。
・渋滞を除いた平均実速度が100km/h以上であること
・死亡事故や傷害事故の発生率が高くない制限速度である事
・制限速度が120km/hに設定されている距離が20km以上連続している事
・安全上・円滑上の支障がない事
スピードリミッターが義務化された当時は、速度超過は危険と判断されたが、今回は「速度を上げても安全性は変わらない」「安全性を考慮して検討する」との意見が強まっている。また、先に普通車の制限速度を緩和した事で、大型トラックが80km/hのままでは危険だという意見も出ている。
2024年問題のある解決策として提示された大型トラックの最高速度引き上げ。しかし、荷物の配達スピードが速くなり、労働時間が短縮されるという期待は単純すぎる。この期待はトラックが増速した場合に、運転手の疲労と事故率が上昇するというリスクを無視している。
更に、高速道路での大型トラックの事故は一般車両の事故に比べてダメージが大きく、後始末に時間とコストがかかる。これらの負の影響は、大型トラックの速度引き上げによって得られるとされる利益をはるかに上回る。
このような観点から見れば、「80km/h制限撤廃」の議論は、
・安全性
・経済性
・公共の利益
を全体的に考慮していない。
結局のところ、私達が重視すべきはトラック運転手の生命と健康、そして私達全員の安全である🚛🤔
■私見
1.解決すべき運送・物流業界の課題
・低賃金・長時間労働
・人手不足
・ドライバーの高齢化
・EC市場の拡大に伴う物流量の増加
2.2024年問題の解決のイメージ
◾ロボットと自動化
物流業界はロボットと自動化技術を導入することで、効率性を高め労力を削減することが期待できる。
◾IoTの活用
IoTの技術は物流業界においても革新をもたらすと予想される。リアルタイムのデータ共有や車両・荷物の追跡などがキーポイントか❓
◾ドローン配送
採用されつつあるように思うが、ドローンによる荷物の配送が一般的になるかもしれない。ドローンが空を飛び交い、荷物を届けるイメージも感じる。
◾グリーンロジスティクス
環境への配慮が重要な物流業界では、電動車両や再生可能エネルギーを利用したトラックなど、持続可能なロジスティクスが想像される。
この問題は、各々の企業での解決は難しいと思う。既に対応が進められているようであるが、運送・物流業界が一丸となって解決する必要性を感じる。ハードとソフト両面での協業が効果的と考える🤔