根拠のない話に惑わされる
・本当にがんになってしまった
・家族には何て話そう
・一生がんと付き合わなければいけないのか❓
・この痛みは我慢するしかないのか❓
2023年、甲状腺がんと診断された医師の記事である。
上記は手術を受けて現在まで苦しんだ医師の気持ちである。特に診断された日は、不安がぐるぐると回り続けて「なんで自分が」という気持ちが心を支配した。いつもがん患者さんに話してきたことが、まさか自分の身に降りかかるとは思ってもみなかったのだ。
また、普段は患者さんにアドバイスすることが次から次へと思い浮かぶのに、自分のこととなると頭の中は真っ白。がん専門の医師なのに。
特に困惑したのは、がんに関するたくさんの怪しい情報であった。当時は、X(旧ツイッター)で甲状腺がんを公表したため、多くの方々から個人的に連絡を頂いた。勿論、純粋な励ましの連絡が多かったが、なかにはいらぬ助言をしてくる人もいたのだ。「甲状腺がんは治療しない方がよい」、「食事療法をした方がよい」、「よく効くサプリメントを紹介したい」、「コロナワクチンは打たない方がよい」など。これまでがん患者さんから聞かされていた、がんの怪しい情報を送ってくる人がいるという話が真実であったことに衝撃を受けた。
ただでさえインターネットには、がんに関する情報が無数に散らばっている。一般の人には、どれが正しい情報なのか分かりにくいと思う。また、どの情報が正しいと確信を持っている人でなければ、様々な情報が入ってくるなかで何を信じたらよいか分からず、戸惑われることもあると感じた。
怪しい情報に騙されてしまう場合も
実際に私が診ている患者さんのなかにも、偏った食事療法を信じ体調を崩してしまった方など、様々な方がいらっしゃった。糖質ががん細胞を増殖させるので、断食をしたらがんは死滅するという情報を信じ、患者さん自身が衰弱してしまった人もいた。四つ足の動物を食べると良くないという情報を信じて、牛肉や豚肉を一切食べず、ずっと味気ない食生活を続けて抑うつになってしまった人‥‥。例を上げたらキリがないが、怪しい情報に騙されて体調を崩しては、がんと上手く付き合って生きていける訳がない。
患者さんだけではない。ご家族がなんとか患者さんの病気をよくしたいと思って、根拠のない健康食品や生活習慣を患者さんに勧めることもあった。その結果、残念なことに最終的に健康を害して、命を縮めることになってしまうような方もいた。
ただ、怪しい情報を伝えてくる人達は、その大半は悪気があった訳でなく、良かれと思って自身が信じていることを伝えてくれているのだ。従ってタチが悪いとも言える。
がんは生死に関わる病気だからこそ、主治医からの情報や後述する情報サイトを信じるのが基本の姿勢として望ましいと考える。それ以外の怪しい情報を伝えてきた友人には、その気持ちだけお礼を伝えてやり過ごすべきである。
がんに関する正しい情報を得る方法
がん患者さんが不安を抱える最大の原因は、先々の見通しがよく分からないことだと考えられる。患者さんが知るべき情報は、治療内容と合併症、そしてこれからどうなっていくかということである。私が強くお勧めするのは、国立がん研究センターの「がん情報サービス(下記)」である。
こちらに記載されている多くの正しい情報は、漠然とした不安を解消しこれから歩んでいく方角の道標となってくれる。
例えば、日本人に多いがんのひとつである、大腸がんの手術を終えた後についての記載を見てみる。手術後の再発を防ぐ目的で、それなりに進行していたことを示すステージⅢであった患者さん、またはステージⅡでも再発の可能性が高いと考えられた患者さんの場合に、補助化学療法(抗がん剤治療)を行うことが推奨されていると記載されている。これは抗がん剤を内服または点滴、もしくはその併用で行うもので、3〜6カ月行うことが一般的とされている。
逆にこれより進行していない場合は、術後の補助治療は不要であるということである。手術の前にどれくらいのステージであるか予想はされているので、術後の治療についてもイメージはしやすいと思う。抗がん剤についても使用する薬剤によって副作用は異なるが、脱毛や吐き気、手先の痺れなどに注意が必要であるといった情報まで網羅されている。勿論、つらい情報が含まれることもあり、その情報をどう解釈すべきかについては、主治医に相談することが大切となる。
緩和ケア医はどのように「がん情報サービス」を利用したか❓
甲状腺がんと診断された時も「がん情報サービス」にアクセスし、甲状腺乳頭がんの項目を熟読した。とても気になっていたのは、甲状腺をすべて切除するのか否かであった。
診察してくれた医師からはおそらくすべて切除することになると言われていたが、できれば少しでも残せたらいいなという期待を持っていた。甲状腺は甲状腺ホルモンをつくる大切な臓器であり、これがすべて切除されてなくなってしまうと、チラーヂンという甲状腺ホルモンの薬を飲んで補充しなければならなくなるのだ。甲状腺ホルモンをつくる機能は回復することはないので、一生薬を飲み続ける必要がある。そのため「できれば避けたいな……」と思っていたが、残念ながら結果は全摘であった。
がん情報サービスのサイトの内容では、手術の合併症の記載も役立ったと実感した。合併症というのは、手術のミスではなくどうしても手術する過程で生じてしまうやむを得ないものなのだ。甲状腺の横には副甲状腺というさらに小さな臓器があるが、例えばここが一緒に取れてしまう合併症に関する記載があった。副甲状腺はカルシウムというミネラルの成分に関連する大切な部位のため、取れてしまうと術後にテタニーと呼ばれる低カルシウム血症の症状で痺れなどが出ることがあると分かった。術後に低カルシウム血症にならないように薬を飲むことになり、この時に情報を確認して良かったと思っている。
そして私が甲状腺がんの項目で最も気になったのが、術後に生じるかもしれないと記載のあった、反回神経麻痺である。甲状腺の近くには、反回神経という発声や物の飲み込みに関わる神経が走っている。手術でどうしてもこの神経が傷つくことがあり、そうなると声を出しにくくなったり、飲食でムセやすくなったりする合併症が生じるのだ。こちらも事前に情報をチェックしていたことで診察の時に、主治医の先生に気になる点を念入りに確認できた。
科学的根拠に基づいたものが記載されている
このような情報をがん情報サービスで得ることで、想定される治療期間を理解でき、仕事をどれくらい休めば良いのかとの準備もしやすかった。また、治療後に生じる合併症などの情報により、生活への影響もイメージすることができ、正しい情報が身を助けてくれたと実感している。
がん情報サービスにはあらゆる種類のがんに関して、患者さんが知っておくべき基本的な情報が網羅されている。こちらの内容はすべて科学的根拠に基づいたものだけが記載されており、基本的に誤りは無い。
まずは、すべての患者さんがこちらの情報を確認するべきと、今回の経験則から強くお伝えする。
読んで下さる方には全く関係ないことだが、家内とは大腸がんの手術を前にして、ある理由で喧嘩状態にあり全く会話をしていない。しかし、喧嘩は喧嘩として家内の大腸がんは我が家が初めて体験する大問題である。この記事の内容は大切だと直感し私の勉強も兼ねてブログに投稿することを決めた。
記事にあった国立がん研究センターの「がん情報サービス」は、最初に大腸がんの内視鏡検査を行って下さった家庭医のHPにリンクされており、参考にさせて頂いていた。ただ素人にはやはり難しくこの記事で大腸がんの説明もあり、非常に助かった。今までは疑問に感じた内容はググっていたが、今後はまず国立がん研究センターの「がん情報サービス」の内容を調べてみることにする。
記事に記載があるように「がん」の情報はネット上に溢れている。「がん」になったら調べるサイトを「プロのがんの医師」に指摘して頂き、それだけで非常に成果があったと考える🤔
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